ベルマモ/いのちのおもさ

「この間の新人、ボスに殺されたらしいよ」
ひょっこりと顔を出したのっぽはちびの隣りで立ち止まり壁に背中を預けた。
「ああ、またか」
うちのボスはわがままだからと幼児は笑い肩を揺らした。そのたびに彼の頭に乗っている蛙が不気味な声で鳴く。ベルフェゴールは不快そうに耳を両手で覆った。
「なかなか使えそうだったってレヴィが残念がってた」
「へえ。あのレヴィがね」
「ボスの護衛を強化したいらしいからねえ、あいつ」
ボスに必要以上の忠誠を誓うレヴィアタンは警備だけではなく近衛兵団を結成したいとか零していた。あそこまでいくと逆に感心してしまう。
「レヴィは過激だからね」
熱烈とも言う。あれを受け流すザンザスは実は懐が広いのかもしれない。
ただ沸点は誰よりも低いからプラマイゼロだが。
「うしししっ、うちは変なのが集まるからね」
「ヴァリアーだからね、物好きしか来ないよ」
誰が好き好んで闇に身を落とそうか、ベルフェゴールのように特殊な人間でなければそうはないだろう。
マーモンはとなりの奇人を見上げた。
「ベルくらいだよ。好き好んで来たのはさ」
こんな真っ暗やみに。
ベルフェゴールは腰を折りマーモンの顔を覗こうとしたが難しかった。
膝を折りしゃがみ込む。今度はベルフェゴールがマーモンを見上げた。
「トップがまたやっかいだから敬遠されがちなんだろうね」
暗殺を主とする理由もあるにはあるが、類は友を呼ぶと古い日本語があるように彼らの上がかなり捻くれているからささくれ者の温床となるのだろう。
馴れてしまえばこのヴァリアーという汚い世界は居心地がよかったりする。
馴れたら、こちらに身が汚され二度と地上には戻られないけれど冷たさのなかにぬくもりを知る。
「ボスはわかりやすい人だよ」
さも当然のようにマーモンは零した。
「要るか、要らないかしかないからね」
要らないからその男は殺された。
要るから自分達は生きている。
ただそれだけのことだ。
ベルフェゴールは瞬きをすると肩を揺らしてみせた。
マーモンのことばはいつでも可笑しい。
ベルフェゴールが生理的にこの赤ん坊を受け付けないからそのように聞こえているだけかもしれない。
「要らなくなったらどうするのさ」
いつか自分も殺されてしまうかもしれない。
ベルフェゴールはそれでもよかった。べつに生きることに執着しないからだ。
しかしマーモンは違う。
彼は生に、この世に、お金に拘る。生きぬくものが勝者なのだ。
「その時は逃げるよ」
生きたいからね、赤ん坊はからからと笑う。
金銭に存在の依拠があるとは淋しいなと思いながらベルフェゴールは赤ん坊を抱えあげた。生理的に受け付けないくせにこの子供の大きさは自分の腕にぴたりと填まる。心地よくもあるから大変だ。矛盾しているが深く考えはしない。この世界は適当で曖昧だから答えなんて始めからなく疑うことさえ愚かなのだ。
「それでボスからのごめーれー。強いヤツを探して」
「そう簡単に言われても困るよ。あれ、念写は風邪引いてないとできないよ」
「なら引けばいいじゃん」
「無理言わないでよ」
呆れの色もまったく見せずにこの赤ん坊はつぶやいた。いつもそうだ。心、此処にあらず。
ベルフェゴールはマーモンを抱え直した。腕に抱えた赤ん坊の重さは命の重さに等しかった。
気紛れなボスはいつまで自分を要ると見るだろうか。少しだけ楽しみにしていることである。

20070108
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