ベルマモ/始めから愚かだった

 殺されるとわかっていた。それでも、どうして此処に居たのかわからなかった。
報酬のためなら此処の外にだってたくさん機会はある。
たくさん、あったのに。
 自分は此処を選んだ。
 ボスの近くに在ることを選んだ。


 ことことと小さな鳥かごは揺れる。
特殊な術を施してあるらしい。
どう抗おうにも内からはどうしようもない。
かすかに震える鳥かごを腕に抱いたベルフェゴールは口元を吊り上げた。
「ザマないじゃん」
 ねえ、マーモンと囚われた幼子の名を呼ぶ。
ひどく懐かしい気がした。たった数日、このこどもが失踪した期間はわずかなものだった。
けれど長い時間がすぎたように感じた。
「逃げれると思ったの」
「逃げ切るとは思わなかったよ」
「なら逃げなければよかったのに」
 マーモンは賢い子だ。ヴァリアーの中でも長けているほうだろう。
そんなこの子が可能性もない選択肢を選んだことに驚愕する。
なんて愚かだと鼻先で笑い飛ばしそうな行動をマーモンはした。
そのことがいまでも信じられない。
敗者には制裁が加えられる。しかしルッスーリアの前例があった。
一度目は命までは奪わない。そうマーモンは知っていたはずだ。
なのにマーモンは逃げ出した。
ザンザスを裏切る手前を取った。それこそ死に値する。
「馬鹿な子」
 哀れみをかけるつもりはないが心底そう思った。
生きることに捕われすぎていまは鳥かごに囚われている哀れな赤ん坊。
死こそすべてであり素晴らしいと謳歌しないが、生きることも同じだ。
「おまえはヴァリアーなんかにこなければよかったのに」
 ベルフェゴールの小さな本音に鳥かごはがたりと揺れた。
「逃げるなんて馬鹿な選択をしたね、僕は」
 逃げなければ生きていられるのだろうか。
むしろヴァリアーでなければ死ぬことはないのだろうか。
「……でもね、ベル」
 小さな逃亡者は小さく呟いた。
「僕は始めから愚かな選択をしてたんだ。ヴァリアーになってしまったこと。それが一番の愚かさだ」
 ベルフェゴールは黙り込むといつものように鳥かごを抱き締めた。
けれどいつもより重たくて冷たかった。
無上に悲しくなった。どうしてかはわからなかった。


*闇に身を落としたのが一番の間違い というお話。

20070108
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