ザンマモ/大きな子ども
ついと抱っこされたのは昼下がりのこと。こどもの体温は暖かいからと湯たんぽにされたのだ。とりわけ手持ちぶたさな時間だったから断る理由もなかった。マーモンは静かにザンザスの膝の上に居た。
「あとで金取るとか言うなよ」
あんまりにも静かで不審に思ったらしい、ザンザスは片目を開きマーモンを見た。
「言わないよ」
「本当か?」
疑い深いねと吐き出しマーモンはザンザスを見上げた。裏切られない程度に信用されていればいいけれどこのおとなはいったい自分のことをなんだと思っているのだろうか。非常に気になる。
「ベルからならねたまには取るけど」
あの王子さまは世界を舐めきっている。地位もあればその天性は類を見ないのだ。比べられることも咎められることもない。だから自分くらい強く出てもおつりがもらえるくらいだ。
「ボスからは頂けないよ。その分ほかのことで貰ってるからね」
口が達者なこどもにザンザスは眉を寄せた。まるで自分を見るようだ。
「強欲だな」
赤ん坊のくせに、といつも思う。なにがそこまでこのこどもを突き動かしているのかザンザスの知るところではない。しかしこれだけはわかっている。
自分と同じくらい大きな要因が彼の後ろにありその背中を押しているのだ。
この小さな背中を。
「ボスにそのことばを返すよ」
計画のすべてを知る赤ん坊はかすかに肩を揺らし呟いた。おのれが強欲であると自覚している。生に囚われている、確かに。しかしこの男、我らがボスであるザンザスには言われたくない。類こそ違うが自分と同等の強欲さを持つ。すべてを知るからこそ言えることだ。
「僕ですら恐くなるほどをボスは求めてる。敬愛するよ」
「それは、誉めてるのか」
「うん。僕の中では最上級の誉めことばだ」
貪欲な赤子から強欲だと誉められた大人はかすかに唇で弧を描いた。
「光栄だな」
己の野望は、それこそ貪欲だと強欲だと非難されるべきものだろう。すべてを奪い尽くすつもりだから誉められたものではない。しかし同じ闇を知る赤ん坊が素晴らしいと誉め讃える。幼い頃、父親に誉められた時のようなくすぐったさが足元から沸き上がったが瞬時にして冷たく重たいものとして心の中に積もっていく。
「マーモン」
大きくてごつごつした、傷だらけの手のひらがマーモンの頭に触れた。おそるおそる確かめるように頭を撫でる。まるでボスとは正反対な手つきにマーモンぐうと口を結んだ。
「おまえは早くしがらみを捨てられるといいな」
小さくこぼされたことばは静かにマーモンの心に積もった。
この人こそ抱き締められるべきなのだろう。この、大きなこどもこそ許されることを必要とするのだろう。けれどマーモンは持ち合わせていなかった。
「……そうだね、ボス」
彼を抱き締める腕を持ち合わせていなかった。
20070109
「あとで金取るとか言うなよ」
あんまりにも静かで不審に思ったらしい、ザンザスは片目を開きマーモンを見た。
「言わないよ」
「本当か?」
疑い深いねと吐き出しマーモンはザンザスを見上げた。裏切られない程度に信用されていればいいけれどこのおとなはいったい自分のことをなんだと思っているのだろうか。非常に気になる。
「ベルからならねたまには取るけど」
あの王子さまは世界を舐めきっている。地位もあればその天性は類を見ないのだ。比べられることも咎められることもない。だから自分くらい強く出てもおつりがもらえるくらいだ。
「ボスからは頂けないよ。その分ほかのことで貰ってるからね」
口が達者なこどもにザンザスは眉を寄せた。まるで自分を見るようだ。
「強欲だな」
赤ん坊のくせに、といつも思う。なにがそこまでこのこどもを突き動かしているのかザンザスの知るところではない。しかしこれだけはわかっている。
自分と同じくらい大きな要因が彼の後ろにありその背中を押しているのだ。
この小さな背中を。
「ボスにそのことばを返すよ」
計画のすべてを知る赤ん坊はかすかに肩を揺らし呟いた。おのれが強欲であると自覚している。生に囚われている、確かに。しかしこの男、我らがボスであるザンザスには言われたくない。類こそ違うが自分と同等の強欲さを持つ。すべてを知るからこそ言えることだ。
「僕ですら恐くなるほどをボスは求めてる。敬愛するよ」
「それは、誉めてるのか」
「うん。僕の中では最上級の誉めことばだ」
貪欲な赤子から強欲だと誉められた大人はかすかに唇で弧を描いた。
「光栄だな」
己の野望は、それこそ貪欲だと強欲だと非難されるべきものだろう。すべてを奪い尽くすつもりだから誉められたものではない。しかし同じ闇を知る赤ん坊が素晴らしいと誉め讃える。幼い頃、父親に誉められた時のようなくすぐったさが足元から沸き上がったが瞬時にして冷たく重たいものとして心の中に積もっていく。
「マーモン」
大きくてごつごつした、傷だらけの手のひらがマーモンの頭に触れた。おそるおそる確かめるように頭を撫でる。まるでボスとは正反対な手つきにマーモンぐうと口を結んだ。
「おまえは早くしがらみを捨てられるといいな」
小さくこぼされたことばは静かにマーモンの心に積もった。
この人こそ抱き締められるべきなのだろう。この、大きなこどもこそ許されることを必要とするのだろう。けれどマーモンは持ち合わせていなかった。
「……そうだね、ボス」
彼を抱き締める腕を持ち合わせていなかった。
20070109