ベルマモ/膝上の子猫に告ぐ

ボスに抱っこされたマーモンが見受けられるようになったのはつい最近のことだ。

「まるで猫じゃん」
 まるで猫だなとベルフェゴールは思った。好ましくない者は威嚇して気紛れで甘えて飼い主には服従する。ベルフェゴールは自分の膝上でうとうとと舟を漕ぐ赤ん坊の頬をぐいぐいと押す。見た目のとおりやわらかい。
「人を動物扱いしないでくれる」
 小さな両手を伸ばしてくわあとあくびをするマーモンはやはり猫っぽい。見た目、というわけではないがどこか似ている。
「人間も動物の一種じゃん」
 赤ん坊の被るフードの上で蛙もあくびをした。
「減らず口も天才的だよね」
「なんかむかつくー」
「ベル。僕が何をいってもむかつくんでしょ」
「さーね、うししし」
 この王子さまはわがままで馬鹿だ。でもってたまに怖い。けれどザンザスとは違い底が見える。彼を構成する要素が理解できるのはそのためだ。
「ベルは浅いね」
 猫は呆れたように人間を見上げた。
「なにおう」
「器って意味じゃないからね。ベルはある意味大物だから」
 彼のなかの闇が浅いとマーモンは思う。だからベルフェゴールはマーモンを抱き締める腕を持つ。侵食されないから共鳴しないから、抱き締められる。
「僕を抱っこしようって思う時点でただの馬鹿か大物のどちらかだよ」
 マーモンは自嘲するように吐き捨てた。顎を撫でるベルフェゴールの指が心地よい。いっすんの迷いもないからだ。
 あの人とは違う手だ。だから戸惑うことはない。深く相手を思うこともない。そうした意味でザンザスはやっかいな存在だ。
「俺、天才だからね」
「そうそう。ベルは天才だ。馬鹿だけど」
「なにおう」
「真実を言ったまでだよ」
 むかつくなあといいながらもベルフェゴールはマーモンを抱っこすることをやめない。サイズがぴったりだとかなんとか言ってまた明日も抱き締めるのだろう。このこどもを。
「むかつくけど猫はそんなもんだからね」
 俺は大物だからいちいち咎めたりはしないよと大人の真似をして遊ぶ。そうし て知るのだ。自分達がまだこどもであることを。
 また、怖くなる。このこどもが自分と同じであり違うということに気付いてしまうのだ。  そのことを目の当たりにしないで済むような腕の中に隠してしまう。まだ、知りたくない。マーモンが自分の知りようのない世界で呼吸をするこどもであることを。いまは、まだ。

いまはただ膝の上で眠り被る猫を可愛がっていたい。






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